以前と比較して山道具は本当に良くなった。
クッカーは以前アルミニウム製だった。まぁまぁ軽いが弱くすぐにベコベコ、本当に格好悪くなるので嫌いだった。が、いつからかチタン製が出てきて、これは金属製の外観で、ボール紙製のような軽さ。頑強で変形しない。△11の世代の人間にとってはチタン製こそが正義であった。
鍋等に使われる金属の比重を適当にウェブで拾ってみた。軽い方からアルミニウムが2.7(単位はg/cm3、以下同じ)、チタンが4.5、錫7.3、鉄が7.9でステンレス鋼もほぼ同じ、銅が8.8。
チタンは比重以上に軽い印象がある。
例えばスノーピークに同じデザインでアルミ製とチタン製で作り分けられている製品がいくつかあるので調べてみた。
ちなみに左右の画像はソロセットで、左がチタン製、右がアルミ製である。
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チタン製 |
アルミ製 |
ソロセット |
約155g、¥5649 |
約250g、¥3864 |
トレック900 |
175g、¥4284 |
265g、¥1974 |
トレック1400 |
210g、¥4704 |
305g、¥2289 |
パーソナルクッカーセット |
330g、¥7480 |
485g、¥2919 |
以上、比重通りであればチタンの方が重いはずであるところ、全て比重を逆転してしまっている。これは重量の割に強度があるので薄く作れるからだと思う。
山道具の素材として理想とも思えたチタンではあるが、もちろん欠点はある。一つは精錬や加工が難しく製品が高価であることで、上の表でもアルミニウム製のほぼ倍額になっていることがわかる。まぁこれは仕方がない。紛失しない限りずっと使えるのだから「えいっ」と買ってしまうしかない。
カメラ業界で東陽理化学研究所が対向液圧法を開発しコンタックスS2のペンタカバー部分をプレス成形したと話題になったことがあるように、新しい加工方法も出て来る。少しずつでも安価になって来たし、これからも安価になって行くだろう。加工が難しいのは強度が高い裏返しだ。
そして世間でもう一つ欠点として指摘されているのが「熱伝導率が低いので鍋底に当てられた炎の熱が鍋全体に広がらないため、焦げつきやすくかつ熱が無駄になる」という説である。
まぁ、いろんな見解や経験はあるだろうから無下に否定はしないのだが、△11の感覚で言えば全くそうは思わない。
鍋に使われる金属の熱伝導率を見てみよう。高い方から銅が386(単位はW・m-1・K-1)、アルミニウムが236、鉄が83.5、錫が66.8、チタンは21.9、ステンレス鋼は20前後。ステンレス鋼とほぼ同じなのだから、チタンの熱伝導率が低いというよりも銅やアルミニウムの熱伝導率が高いのだ。
実際家庭用の分野で「ステンレス鋼製の鍋は焦げ付きやすい」なんて聞いたことがない。熱伝導率が低いと焦げつくなら、陶板焼きなんて成立せんやろ。陶器の熱伝導率は1.0〜1.6だ。
もしチタン製クッカーが焦げつきやすいとしたら、「チタンだから」ではなく「薄いから」でないか。まぁチタン製クッカーと言えば薄いわけで薄さも事実上チタン製クッカーの属性ではあるが、しかし個人的には小さいバーナーヘッドのストーブとチタン製クッカーという一番「焦げ付きやすい」ハズの組み合わせで使っているにも拘らず困ったことはない。「チタンのクッカーでは米が炊けない」と言われてそのまま信じている人は、一度実際にやってみると良い。
△11より強火で使う傾向の人の中には、現にチタン製クッカーで炒め物をして焦げついて困る人がいるのかも知れない。しかしチタン製だからではなく薄さが焦げつく原因ならば、普通の厚さのチタン製クッカーを作っても面白いかも知れない。加工が死ぬ程大変だろうし、高価な割に利点が少なく売れることはなかろうが、先に示した比重を見る限りでは普通の厚さにしてもステンレス鋼製よりは軽くできるハズだ。
もう一つ気になっているのは、酸化である。
チタンは酸化すると虹色に変色し最後は黒くなる。それを「焦げつき」と勘違いしているのではなかろうか。
ちなみにバイク業界ではチタンマフラーの酸化による色の変化を鑑賞の対象とする。まぁ直火に当てるクッカーと違い、排気ガスがチタンを美しく変色させる程度の熱さであることもあるとは思うが、、、
熱量が無駄になる、という話に関しては、単純に熱伝導率だけでなさそうだ。
例えばチタン製クッカーは薄くできているので、熱伝導率が低くても、そもそも伝導しなければならない距離が短い。またもう一つ関係しそうな比熱はアルミニウムが0.90(単位はJ/gK)、チタンが0.52、鉄が0.45、銅が0.39。チタンは悪くない=早く温度が変わる方の数値である。
この件に関してはそもそも鍋の材料なんぞより形状の方が余程効いて来ると思う。
以上、「チタン製クッカーには、実際上の問題はない」という結論で話を終わりにして結構である。
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